DATE 2008.12. 2 NO .



「――っ」

 固い感触に、イザヨイは重い瞼をもちあげた。
 飛空艇らしき低い稼働音が、身体を通して聞こえてくる。

 眼下に灼熱の海が広がって、それから……?

(何か叫ぶ声が聞こえたが、風にまぎれて聞き取れなかった……)

 身体のあちこちが、痛む。
 だが、自分達はどこから飛び降りた?
 「痛い」程度で済むはずがない。

(風……そうだ。風に包まれて、音が…消…え……)

 イザヨイの瞼裏に、息苦しさに意識を手放す直前の光景が蘇る。
 それは、必死の形相で印を組む――

「「「「御館様っ!!」」」」

 ようやく飛び降りてからの事を思い出したイザヨイは、体の痛みも忘れて跳ね起きた。
 その声に、多少のズレはあるものの、ほぼ同じタイミングで他の三人の声も重なる。
 彼ら四人と少し離れたところに、求める主君の姿があった。

 苦しげに歪んだ顔に、イザヨイは背中に冷たいものが走り抜けるのを感じる。
 だがすぐに主君の腕が動き、目元が隠れて見えなくなった。
 そうされてしまうと、イザヨイに主君の表情は読めなくなる。

「……ははっ、外見の取り合わせは見事に違うってのに……全く、よく似た四人組だ」

 緩慢な動作ではあったが身体を起こし、確かな声音で応えが返ってきた。
 それだけで、その声だけで、彼ら四人は深く安堵出来た。

 けれど。
 外見の取り合わせ。
 その言葉に、イザヨイは自分と仲間の姿を見やる。
 老若男女、体格差。風の煽りを受ける着衣の違い。

(ばらばらに落ちて行く我らを、ここに導いて下さったのだ)

 そう知ったイザヨイの視界に、主君の双眸が細められるのが映った。

「全員、動けるな?」

「「はっ!」」
「問題ありませぬ」
「御館様のおかげです!」

「……切り傷の酷い者がいないなら、いい」

 飛空艇の甲板に打ちつけられたはずだというのに、痛みは浅い「切り傷」によるものばかり。
 そして自分達の怪我を慮る主君は、まだ立ち上がらない。
 仰向けに倒れていた――背中を打ってしまわれたのだろうか?

「御館様、お怪我を……!」

「構わん、それより――」

 急いで手当てを、と駆け寄ったイザヨイに制止の手が向けられた、その時だった。

「エッジ……?」

 船首の方、船室の陰から人が現れ、声が掛けられた。
 身体は反射的に身構えて得物に手を掛けたが、声の主を見てすぐに力が抜ける。
 碧の髪をなびかせる彼女の姿に、イザヨイは覚えがあった。

「どうして、エッジが空から落ちてくるの?」

 まさに落ちてきた身からすれば、そんな物語の様に形容されても困る、軽い台詞。

「よぉ、リディア……天国じゃねぇよな、ここは……」

 けれど主君の口調が変わるのを、イザヨイは感じた。
 横顔にも笑みが刻まれる。
 先程自分達に向けられたものとも、国にいる時に民に向けるものとも違う。
 ゆるくもちあげられた口元は、幸せに満ちているよう、で。
 それがこの邂逅によって目覚めたものであるのは、痛いほど伝わってくる。

 差しのべられた華奢な手を何も言わずに取る時、
 低く、ほんの小さな声で、
 主君の痛みに呻く声が漏れ聞こえた。
 きっと碧の髪の彼女には、届いていない。

「今ルカが舵をとっているの。詳しい話は、あっちで聞かせて? ……私達も、話さなきゃならない事がたくさんあるから」

「……おぅ」


『――私は女ではなく、エブラーナの忍でありますゆえ』

『……バカな女だ』


 主君の片手が動いた。
 イザヨイは――仲間達と共にその背に付き従うのみ。







≪あとがき≫
 細かいシチュエーションには突っ込まないで下さい。未プレイなんです。リディアが様子を見に来るのが遅すぎなのは自覚している…!
 地の文で「エッジ」と言わない+「彼女」を使うのはリディアだけ。これがテーマの象徴でありましょうか。

 天藍さんの素敵なリディア視点verはこちら
 ありがとうございましたm(_ _)m





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